プロは「何をやっても職人」でなければならない

「職人は何をやっても職人じゃないとダメ。初めての作業であっても、素人のような仕事をしてはいけない」――。先輩からそう言われて育ちました。

昔から、足場を自社で組んで施工するペンキ屋さんは多いものです。かつては丸太を番線(針金)で縛って組むのが主流でした。私は当時から足場組みが苦手で、自分が縛った足場にはなるべく上りたくありませんでしたが、周りは結構みんな自分たちで組んでいました。

では、現在はどうか。 ウチでは100%専門の足場業者に依頼しています。今や足場の組み立ては資格が必要な作業ですし、そもそも「上手・下手」というレベルの話ではないからです。

専門職人には、専門の膨大なノウハウがある

次にコーキング(シーリング)です。これも自社でやる塗装業者は昔から多いです。ウチでも、カートリッジ1〜2本程度で済むような微細なクラック(ひび割れ)や目地詰めなら、自社で対応します。

しかし、サイディングボードの全面打ち換えなどは、必ず専門のコーキング業者に依頼します。私が塗装で培ってきたノウハウと同じように、コーキング屋さんにはコーキング屋さんの、専門かつ膨大なノウハウがあるからです。見よう見まねでなんとかなる分野ではありません。

防水工事も同様です。ベランダの小さな補修程度なら自社でやることもありますが、面積が広かったり、使用経験のない材料を使う場合は、やはり専門の防水業者に依頼します。

「他所に頼むなら自社施工じゃないだろう」という指摘を受けそうですが、私はお客さんに「うちは自社施工だから安いですよ」などと言ったことは一度もありません。

私の認識では、自社施工とはこういうことじゃないかと考えています。

「塗装工事は自社職人が責任施工。足場やシーリングなどの専門工事は、長年信頼関係を築いている専門業者と連携し、高いクオリティで品質管理を行っています」

強いて言えば、大手の営業会社やハウスメーカーのような「営業マンの人件費や中間マージン」がかからない点は、お客様にとって大きなメリット(有利な点)だとは思っています。

「大量にある自社施工の店」の裏側

さあ、ここからが本題です。 ネット検索で大量に出てくる「自社施工の店」は、本当にすべて自社施工なのでしょうか?

正直、業界の裏側を知る身としては首を傾げざるを得ません。言葉を濁して書きますが、私の知り合いのフリーの一人親方は、ある割とメジャーな会社から、ものすごい安値で何棟も塗りに行かされていました。別の人は、びっくりするような低価格で、長い間仕事を請けていたそうです。

また、私自身も過去にリフォーム会社から「そちらの職人さんを、うちの『自社職人』として名簿に登録させてもらえないか」と問い合わせを受けたことがあります。 ……こういうケースも、表向きは「自社職人による自社施工」と謳われているのかもしれません。

「形」は真似できても「品質」は真似できない

現在の足場は、部材さえあればハンマー1本でカンカン叩き込めば形になる(くさび式足場)ようになりました。 じゃあ、鳶(とび)職人はいらないのかといえば、全くそんなことはありません。 ジャッキの位置、手すりの位置、足場の高さなど、すべてに安全と作業性のためのノウハウが詰まっています。見よう見まねで同じ形を目指しても、高さや強度がまちまちの、グラグラした緩い足場になるだけです。

これも自社完結(他社の人間が上らない)であれば、不具合は表面化しません。実際、昔の丸太足場はそういう危ういものが多かったです。

コーキングも、上に塗装をしてしまえば、一見するとアラは目立ちません。塗装することを前提とすれば、本職に頼まなくてもそれなりの見た目には仕上がります。 しかし、全体の耐久性やクオリティは、圧倒的に本職のほうが上です。ただ、一般のお客様にはその見分けがつきにくいのが現実です。

「安い自社施工」に潜むリスク

以前、私がいた塗装店で、2軒並んだお宅の見積もりをしたときのことです。 片方のお宅が別の塗装店にも見積もりを取ったところ、コーキングの費用がウチの「半額以下」でした。 半額となると、既存のコーキングを撤去して打ち換えるのに必要な「人数分の人件費(日当)」を完全に割り込む金額です。

本来なら「それはおかしい」と言ってあげるべきでしたが、他店のやることに口を挟むのは業界のタブー。結局、ウチはもう一軒のお宅だけを塗り替えました。 おそらくその業者は、古いコーキングの撤去もそこそこに、上から自分たちでコーキングを薄く盛り付けるつもりだったのでしょう。これも言ってしまえば「自社施工」です。

「自社施工だから中間マージンがなくて安い」を、みなさんは「他社を挟まないから(質が同じで)安い」と思っているかもしれません。 しかし、標準の仕上がりを「10」とすると、信頼できる他社(専門業者)を挟めば仕上がりは「10」のままですが、見よう見まねの自社施工なら、仕上がりは確実に「10以下」になります。

職人は「自分の専門」で最大限の力を発揮する

腕の良い大工さんが、一人で家を建てたという話をよく聞くと思います。 しかし実際には、電気屋、水道屋、左官屋、屋根屋、板金屋など、さまざまな「専門業者」が集まってバトンを繋ぐから良い家が建つのです。

職人は、どのような状況でも、自分の専門分野において最大限きれいに、そして長持ちするように仕上げます。

みなさんが頼もうとしているそのお店は、本当に「その作業の専門家」ですか?